自分の頭で考える子を育てたいというのは、教師の切実なる願いです。
それは、教育が目指している「自主・自立」すなわち「生きる力の育成」でもあるからです。
しかし、それを実現するための授業は相当難しいのです。
自分の頭で考える子を育てるための授業、指導で大切な事はなんなのか。
一概には言えませんが、1つの事例としてご紹介します。
教科書は導入と共通事項として使う
6年生の保健の授業で、「喫煙が健康に及ぼす害について考えよう」という授業を行いました。教科書通りに授業をすれば、「喫煙をしない子にしよう」とか「喫煙マナーを守れる子にしよう」とか「喫煙は悪い」ということになります。
でも、授業で扱う内容というのは、実はあくまでツール(道具)にすぎません。
知識は必要ですが、それをどのように活用するのか、つまり、思考力、判断力の育成が教育の本質の1つであるというのが私の考えですから、少々アレンジします。
喫煙というのは、子ども達にこれから起こりうる現実の一つに過ぎず、実際には様々な出来事が子ども達に訪れます。子ども達は自分で考え、自分で判断し、自分で自分の人生を切り開くのです。そのような人の事を自立した人と言うのです。
Let's think
「Let's think!」と黒板に書きます。
「3年A組」というドラマで、しょっちゅう出てくる言葉を引用しますから、観た子はすぐに反応します。
まずは、喫煙による健康への害、主流煙や副流煙、喫煙年齢による身体への影響など、教科書通りに教えます。ここで、一応、指導要領の内容はクリアしておきます。
ここから、自分の頭で考えようと再びメッセージを送り発問します。
将来、自分はタバコを吸いたいか、絶対に吸わないかを、今の自分はどう思っているのかを決めてノートに書きます。そして、その理由を書いてください。
少し、授業論っぽくなりますが、発問と指示はセットです。
問いを発したのなら、発言なのか、書くのか、挙手をするのか、ただ考えればいいのか、交流するのかを、明確に示すことで、子ども達は思考したことの行き場を確保することができ、すぐに何らかの形で表現として残すことができるのです。
あちらこちらで話し声が聞こえてきますが、おしゃべりの内容は発問に関係するものなので止めません。無駄話ではないからです。思考が活性化しているのです。多くの教師は、無駄話と思考話の区別を見極めていません。心地よいざわつきと、授業妨害のざわつきがあるのです。
thinkを交流することで思考が深まる
さて、話を戻します。
「では、まずは数を確認します。タバコを吸いたいと思っている人・・・5人。絶対に吸わないぞと思っている人・・・その他全員(20名以上)」
数を確認するというのは、必ず全員の手が挙がっているのかを確認する必要があります。
そこを逃すと、全てが曖昧になってしまいますから。
全ての子が参加していることを確認してから、子ども達の思考を板書によって可視化します。
そして、自分の考えではない考え、あるいは自分と同じような考えを持つ人は、どのような理由からなのかという初々しい知的好奇心をかき立てます。
「喫煙は、身体に悪いということを教えました。だから、普通は吸わないということを言いますね。でも、5人は吸うかもしれない、もしくは吸ってみたいという意見だ。これは、是非、聞いてみたいね。」
【子どもの発言内容(将来タバコを吸ってみたい派)】
「1本吸ってみてから、吸うかどうかを決めたい」
「なんか、吸っている姿にロマンを感じる」
「アイコス?みたいのなら、害が少ないみたいだから試してみたい」
「おいしいのかどうか、知りたい」
私は、子ども達の発言に感心しました。これは簡単にまとめると、「経験してみたい」という願望なのです。この発表を聞いていた子ども達も立派でした。自分とは違う考え方を聞いて
「なるほどね」とか「ああ」という深いうなづきも見られたからです。
「教科書通りに学習すると、経験する前からダメということになってしまい、吸うことが「悪い」ということになります。でも、この「経験してみたい」ということを、みんなは否定できますか?」
ということを問いかけてみました。多くの子は、「そーだなー、それは分かるな―」みたいな表情をしていたので続けます。
「では、吸わないぞっていう人の意見も聞いてみましょう」
【子どもの発言内容(タバコは吸わない派)】
「お金がかかるし、健康にも害があるから。」
「くさいし、嫌な気持ちになるし、もしかしたら吸っちゃうかも知れないけど、今は吸わないって決めている。」
「吸っている時間があれば、他にできることがあるから、時間の無駄だと思う。」
「一度吸ったら、やめられなくなりそうだから。」
「家も臭くなる。」
私は喫煙者なので
「そうか、深く傷ついたよ」と、ユーモアを交えて伝えておきました。
授業には笑いも必要なのです。
さて、意見が出たところでまとめます。
授業のまとめ
「今日はみんな、良いthinkができたね。先生がみんなに伝えたいことは、知ったのなら、今度は自分の頭で考えることが大切だということだよ。先生は先生なりの考えをもちろん持っているのだけれども、先生が言ってしまうと、「先生の意見が正しい」みたいな感じになってしまって、影響を受けてしまうから、今日の授業ではタバコに関する先生の考えは言いません。大切なのは、自分はどう感じ、どう考えるのかということです。そして、これから中学校に行くと、自分で判断する必要に迫られる出来事がたくさん出てきます。それを、他人の言う意見ばかりを信じていれば、すべてを他人任せになってしまう。自分の人生だから、自分で選べるようになってほしいのです。先生は応援してますからね。今日は、良いthinkが出来たので、まだ時間が残っていますが、終わりましょう。」
さりげない話ですが、良い授業になるためのポイントがあります。
どこか分かりますか?
ヒントは、それをすると、子ども達が「いい授業だったな~」と思えるポイントが2割ほど上がります。そして、どの授業でも使える技術です。
読んでくれた方も、thinkしてみましょう。
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記事を読んで頂き、ありがとうございました。
※(2020.4.14 加筆、修正)