Nayunayu先生 ~愛のある教室~

現場教師の24年間の実践理論

一生懸命な人へのアドバイス

 一生懸命な人、それは多くの人からの好評価を得ることができ、社会的貢献度が高く、自身の能力も高まります。それと引き替えに疲労困憊が起こります。

 軽いアドバイスですので、かるーい気持ちで読んでくださいね。

 最近、疲労困憊気味だなという一生懸命な人のための記事です。

 

アドバイス1 何もしないということに挑戦してみよう!

 数年前、新卒3年目の先生と同じ学年を担当したことがあります。

 熱心な先生でしたので、毎日の放課後に次の日の授業の流れを考え、ノートに書き綴っていました。そのノートは3年間続けているということで、ものすごい量になって、その先生の財産になっていました。

 ところが私は、放課後に何もしていません。

 ただの事務処理とかだけです。

 ある日、毎日毎日遅くまで残っているようだったので、「そんなに毎日何やってるの?」と聞いてみました。すると、授業の準備で、それは新卒時代から続けていることであり、そのノートがないと不安になるということでした。

 その先生はなかなか力があるので、私の見たところによれば、そのノートは必要在りません。必要ないというのは、卒業しても良い時期であるということ。

「そんなにじっくりと考えなくても、君は授業ができるはずだよ。もうやめたら?」

とかるーくアドバイス。

「えー、いいんですか? これがない状態で授業したことないんですけど。」

「たぶん大丈夫。できるはずだよ。」

「えー、無理です。」

「無理じゃないって。できるはず。」

「授業準備をしないで授業ってしていいんですか?」

「していいか、しては駄目かという問題ではなくて、できるかできないかの問題の話をしているんだよ。」

「うーん・・・、どうしようかな~。」

 なかなか納得しません。私はとても良いアドバイスをしているはずなのですが、納得しないというかできないのです。その理由は簡単で、一生懸命な自分が良いということを疑っていないからです。あるいは、一生懸命であることが自分を支えているので捨てることができない。何かをしていなければいけないのです。

 そこで「何もしないで授業をやってみるということに挑戦してみよう!」と提案をしましたら、「じゃあ、やってみます!」ということになりました。どうやら「挑戦する」という言葉がヒットしたようです。

 

 次の日。

「どうだった?」と聞いてみると「できました!」と明るい反応が。

「しかも、準備していたときよりもうまくできた感じがします!」と。

 実は、授業準備というのは難しいのです。やり過ぎるとその準備に捕らわれてしまい、肝心の子ども達が置き去りになりかねないのです。ですから、準備はあくまで準備であり、青写真程度の方が良く、子ども達の反応を見ながら授業展開をした方が子ども達のためになるのです。そんなことも説明しておきました。

 そして、さらに「キミのそのため込んでいるそのノートだけどね、捨てちゃおうか?」と提案しました。

「えーーーー! 捨てるんですか?」

「うん。だって、そのノート見直すことってあるの?」

「・・・全く無いです。なんなら、一度も開いたことありません。」

「だとしたら、そのノートはただのゴミだよ。」

「・・・ゴミなんですか?」

「うん。だって、もう見てないんでしょう。」

「・・・うーん、でも、ずっとこのノートで褒められてきたし・・・」

「じゃあ、こう考えてみよう。そのノートは役には立ったんだよね。だからありがたいのだけれども、卒業だよ。今の君は3年前とは違うということは自分で分かるよね。1年目に書いた内容を3年目になってもやるってことはないでしょう。力をつけているのだから、1年目にできたことなど、メモを見なくてもできるはず。だから必要ない。卒業だ!」

「・・・・・うーん、うーん。・・・分かりました。えいっ!」

 と、ゴミ箱に収まりました。おかげで机の上がすっきりです。

 後日、すっきりした部分に、今必要そうな本を数冊プレゼントして、いつでも見られるようにしておきました。 

 

アドバイス2 何もしていないということをしているのだよ。

 今、一緒に学年を運営している先生は、中堅のかなり力のある先生です。

 かつては、バリバリにやっていた先生です。

 ところが、私と一緒に組んでいる今年は、それほど一生懸命ではありません。ほどよく力を抜いています。私はそれを「いいね!」と伝え続けてきました。かつてはバリバリにやっていた人が、ほどよく手を抜くと、とても良い効果があるのです。

 私が褒めまくっているせいかどうかは分かりませんが、その先生は

「昔はバリバリやっていたんですけど、色々弊害があって、今は手を抜いているんです。そろそろやらないとなーとか思っています。」というようなことを言います。

 一生懸命な人って、何かをしていなくてはいけない状態なのです。

 何かをしているときだけが、働いている、役に立てている、自分の力が伸びている、素晴らしい人になれるということを信じているのです。

 それはそれで、ひとつの事実として存在していますが、別の視点をアドバイスしておきます。

「あんね-、今君は何もしていないと感じているでしょう。でも違うよ。何もしないということをしているんだよ。だから子ども達が伸び伸びとしているじゃないか。そして、肝心なポイントについては完全に押さえている。出るときはきちんと出ていて、それでいて子ども達に任せるところは任せている。今まで一生懸命やってきたからできる高等技術だよ。」

 深く納得していた表情、あるいは満足した表情が起きたので、素敵なアドバイスになったんだと思います。なので、一気に価値観を変えるために追い打ちをかけます。

「だいたいね、教師って真面目な人が多くて、一生懸命が賛美されやすい。だって、真面目に頑張っている人にとっては、真面目な人を褒める=自分も良かったってことになるからね。でもまあ、それも仕事の一面に過ぎない。でも、その一生懸命さは必要ではあるだろうけど、一生懸命ではない人を攻撃してしまうってことにもなる。」

「はい、かつての自分がそうでした。だから気づいたら後輩達が近寄ってきませんでした。なんでこいつらは一生懸命やらないのかって怒っていましたから。」

「そうか、それは良い経験をしたね。そして、そこに気づいたのなら、君はやはりセンスがいいのだよ。それでね、ついでだから言うけど、本当に良い教師は何もしないのだよ。何もしないけれども教室が安定していて、子ども達が元気に学ぶというのが理想型だ。例えば警察。警察が一生懸命な世の中は治安悪化がひどいってこと。例えば消防。消防署が一生懸命な世の中は放火が多いか、緊急搬送が多いってこと。例えば病院。病院が大忙しってことは、人々の健康がひどすぎるってこと。警察だって、消防だって、病院だって、暇な方が状態が良いでしょう。学校も同じだよ。」

 

 

アドバイス3 両方を越えた場所にある中間への誘い

 一生懸命に取り組むことは必要です。

 そして何もしないということも必要です。

 もし、素敵な先生になりたいのなら、その両方は「通過点」として必要です。

 つまり、一生懸命な人は「何もしない」が必要であり、はじめから何もしていない人には「一生懸命」が必要なのです。ですから、今回の記事は「一生懸命な人へのアドバイス」なのです。一生懸命ではない人には「一生懸命にやろうよ」というアドバイスになりますからね。

 では、何に向かうための通過点なのかといいますと、それは「中間」です。バランスが取れている状態。やるべき時と休むときとが分かっている状態。手を貸すときと貸さないときが分かる状態。教師という仕事だけにかかわらず、これはあらゆることに適用されます。

 哲学の世界では、アリストテレスさんが「中庸の徳」というのを提唱しています。なんでも「中間がいいんだよ」ってことです。

 

 食べ過ぎな人が、断食するのは簡単です。

 勉強し過ぎる人が、全くしないのも簡単です。

 運動しすぎる人が、全くやめてしまうのも簡単です。

 どの分野においても、し過ぎるひとが全くしなくなるのは結構簡単です。

 逆はむずかしいんですけどね。つまり、しない人がする人になるのは難しい。

 ですから、ステップとしては次のようになります。

 

 第1ステップ・・・まずはやる。

 第2ステップ・・・やり過ぎるくらい追求する。

 第3ステップ・・・やめる。

 第4ステップ・・・中間に至るための道を探る。

 

 バランスの取れている人、調和の取れている人、酸いも甘いも知っている人、あらゆる人たちに対応できる人、それが中間です。そして最も難しい場所。

 運動だと、ほどよく運動し続けるのは難しい。

 食事だと、健康を維持しながら食べ過ぎないけど食べるのは難しい。

 勉強だと、知ったことを実践に活かしながらほどよく理解するのは難しい。

 

 ずっと一生懸命な人って、側にいたら疲れますよ。なんかやらないといけない感じがバンバン出てますから、気を抜けない。そして、自分の力がまだまだ足りないと感じ続けなくてはいけない。

 どうでもいい話ですが、昔のジャッキーチェンの映画では、よく師弟関係が描かれています。師匠って、どの作品をみたってゆったりしていますよ。そしてかつては凄い達人だったという武勇伝つきです。

 ジャッキーチェンが分からない人は、なんでも良いので、師弟関係が描かれている作品を思い浮かべてください。師と呼ばれる人たちは、ほぼ全員が「中間」にいるはずです。

 さあ、一生懸命すぎた人は、次の場所へ行きましょう!

 サボりまくっている人は、まずはやりましょう!

 おしまい!